カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?(経産省)

202105.25

2020年10月、日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」では、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としています(サイト内リンクを開く「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)。国際的にも脱炭素化の機運が高まる中、“グリーン”に日本の次なる成長の機会を見出し、策定されたのが、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」です。今回はその内容を解説します。

企業の挑戦を後押しする産業政策「グリーン成長戦略」
今、温暖化への対応を“経済成長の制約やコスト”と考える時代は終わり、“成長の機会”ととらえる時代になりつつあります。実際に、環境・社会・ガバナンスを重視した経営をおこなう企業へ投資する「ESG投資」は世界で3,000兆円にもおよぶとされ、環境関連の投資はグローバル市場では大きな存在となっています。また、諸外国の政府を見ても、120以上もの国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げ、脱炭素化に向けた大胆な政策措置を相次いで打ち出しています。

脱炭素化をきっかけに、産業構造を抜本的に転換し、排出削減を実現しつつ次なる大きな成長へとつなげていく。まさに脱炭素化は、産業政策の観点からも、重要な政策テーマとなりました。

加えて、2009年のリーマンショックで、日本の研究開発投資は、海外と比較して回復に長い期間を要してしまったという反省があります。そのため、昨今のコロナ禍からの回復局面に向けては、リーマンショック時の反省も生かして、イノベーションを促す投資を促進し、産業競争力の強化、新産業への転換につなげていく必要があります。リーマンショック後に起こったような経済停滞を繰り返さず、「2050年カーボンニュートラル」を旗印に、日本の持続可能な経済成長、新たな雇用創出につなげていくことが目指されます。

一方で、コロナ禍で、「2050年カーボンニュートラル」という高い目標が宣言されたことに疑問をもつ人もいるかもしれません。

しかし、コロナ禍により、あらゆる分野で不確実性が高まっている状況の中でイノベーションをうながすには、短期間に細かい介入を繰り返すよりも、長期間の移行期間を確保した上で、可能な限り高い目標を掲げ、それに向けて予測可能な見通しをしめすことが重要です。

そこで、「2050年カーボンニュートラル」という高い目標のもと、民間企業の大胆なイノベーションをうながし、新しい時代に向けた挑戦を応援するために策定されたのが、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」です。

国として具体的な見通しや高い目標を掲げることで、カーボンニュートラルの実現に向けたイノベーションを起こし、日本の次なる成長の源泉となる。こうした「経済と環境の好循環」をつくっていくことが、この戦略策定の狙いです。

14の重要分野で「実行計画」を策定
「グリーン成長戦略」では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、今後、産業として成長が期待され、なおかつ温室効果ガスの排出を削減する観点からも取り組みが不可欠と考えられる分野として、14の重要分野を設定しています。

具体的には、エネルギー関連産業として、①洋上風力、②燃料アンモニア、③水素、④原子力を、輸送・製造関連産業として、⑤自動車・蓄電池、⑥半導体・情報通信、⑦船舶、⑧物流・人流・土木インフラ、⑨食料・農林水産業、⑩航空機、⑪カーボンリサイクルを、家庭・オフィス関連産業として、⑫住宅・建築物/次世代型太陽光、⑬資源循環、⑭ライフスタイルを選んでいます。

14分野は幅広く、成長のフェーズもそれぞれの分野で異なります。そのため、分野ごとに2050年までの「工程表」も合わせてつくるとともに、関係省庁と連携しながら実行計画を着実に実施していきます。今後は、それぞれの分野の特性をふまえながら、日本の国際競争力を強化しつつ自立的な市場拡大につながるよう、さらなる方策を検討していくことになります。

あらゆる政策ツールで挑戦をサポート
企業のイノベーションへの大胆な投資を後押しするには、企業のニーズに沿った支援策が必要です。そのため、2050年までの「工程表」で整理した、①研究開発、②実証、③導入拡大、④自立商用といった段階を意識して、それぞれの段階に最適な政策ツールを、きめ細かく措置していきます。具体的には、次のような分野横断的な5つの主要政策ツールを打ち出しています。

(1)予算:「グリーンイノベーション基金」創設
2050年カーボンニュートラルの実現には、これまで以上に野心的なイノベーションへの挑戦が必要です。そのため新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し、企業を今後10年間、継続して支援していきます。

また、それぞれのプロジェクトにおいて、官民で野心的で具体的な目標を共有し、さらに、取り組みが単なる研究開発に終わらず社会実装までつながるよう、企業経営者に経営課題として取り組むというコミットメントを求めることになっています。この2兆円の基金を呼び水として、約15兆円とも想定される、民間企業の野心的なイノベーション投資を引き出すことが狙いです。

(2)税制:脱炭素化の効果が高い製品への投資を優遇
税制面では、企業の脱炭素化投資を後押しする大胆な税制措置を行い、10年間で約1.7兆円の民間投資創出効果を目指していきます。

具体的には、「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」をつくります。例えば、脱炭素化の効果が高い製品(燃料電池、洋上風力発電設備の主要専門部品など)をつくるための生産設備を導入した場合、一定の税の優遇がうけられるようになります。また、コロナ禍の苦しい状況でも積極的な研究開発投資をおこなう企業については、「研究開発税制」でみとめられている税の控除上限を引き上げることで、企業の投資意欲を引き出していきます。

(3)金融:ファンド創設など投資をうながす環境整備
カーボンニュートラル実現のためには、CO2を排出しない再生可能エネルギー(再エネ)の導入(グリーン)に加えて、省エネルギーなどでCO2排出量を減らしていく着実な「低炭素化」(トランジション)、「脱炭素化」に向けた革新的技術(イノベーション)への投資が必要です。

そこで、そうした取り組みに民間投資を呼び込む政策を打ち出していきます。10年以上の長期的な事業計画の認定を受けた事業者に対して、その計画実現のための長期資金供給のしくみと、成果連動型の「利子補給制度」(一定の要件を満たせば、利子に相当する助成金を受け取ることができる制度。3年間で1兆円の融資規模)を創設。事業者による、長期間にわたるトランジションの取り組みを推進します。

また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD; Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」(サイト内リンクを開く「企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み『TCFD』とは?」参照)などの取り組みを通じて、気候変動に関する企業の積極的な情報開示を促していくことなどが考えられています。

加えて重要なことは、金融機関や金融資本市場が適切に機能する環境整備やルールづくりです。国内外のESG資金を取り込んでいくため、金融機関の協力体制を構築し、社会課題に取り組む事業の資金調達のために発行される債券「ソーシャルボンド」を円滑に発行できるようにするなど、カーボンニュートラルに向けたファイナンスシステムの整備に取り組んでいきます。

(4)規制改革・標準化:新技術が普及するよう規制緩和・強化を実施
研究開発や実証を経て、技術を社会に実装しようとしたときの課題の一つが規制の問題です。需要を拡大し、量産化を目指すために、新技術の導入が進むよう規制を強化し、導入をはばむような不合理な規制については緩和します。また、新技術が世界で活用されやすくなるよう、国際標準化にも取り組みます。たとえば、水素を国際輸送する際の関連機器の国際標準化や、再エネが優先して送電網を利用できるような電力系統運用ルールの見直し、自動車の電動化を推進するための燃費規制の活用などです。

また、CO2に“価格”をつける「カーボンプライシング」をはじめとする、市場メカニズムを用いた経済的手法についても、成長につながるものであれば、既存の制度活用や新たな制度づくりを含めて幅広く検討し、活用していく方針です。

(5)国際連携:日本の先端技術で世界をリード
日本の最先端技術で、世界の脱炭素化をリードすることこそが、日本が果たす国際貢献です。これは、特にエネルギー需要の増加が見込まれるアジアにおいて必要不可欠と考えられます。

米国・欧州との間では、イノベーション政策における連携や、新興国をはじめとする第三国での脱炭素化支援などの個別プロジェクトを推進するほか、技術の標準化や貿易に関するルールづくりに連携して取り組んでいきます。

また、アジア新興国との間では、たとえば、カーボンリサイクル、水素、洋上風力、CO2回収といった分野での連携や、各国事情に応じた実効的な低炭素化への移行(トランジション)を率先して支援します。二国間や多国間の協力を進め、これらの国々の脱炭素化に向けた取り組みに貢献していきます。

 

【経産省サイト】

2021-05-20

カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?