「エネルギー白書2021」の読みどころ!

202107.16

資源エネルギー庁では、エネルギーの需給に関しておこなった施策について、国会に年次報告を提出しています。これに基づいて、毎年発行されているのが「エネルギー白書」です。エネルギーをめぐる国内外の状況をはじめ、日本の取り組みや今後の方向性などがまとめられており、エネルギーについて知るためには欠かせない資料です。2021年6月4日に公開された「エネルギー白書2021」から、その読みどころをお伝えしましょう。サイト内リンクを開く エネルギー白書2021

2021年、日本のエネルギー政策は?

エネルギー白書は、その年のエネルギーをめぐる状況と主な対策をまとめたもので、①その年の動向を踏まえた分析、②内外のエネルギーデータ集、③施策集という3部構成になっています。

2020年のエネルギー白書では、福島の復興・再生に向けた取り組みや、激変する国際資源情勢、自然災害など日本を取り巻くさまざまなリスクに対応する強じんなエネルギーシステムづくり、温暖化対策へのさらなる対応について取り上げました。

そして2021年版では、例年取り上げている福島復興の進捗に加え、2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取り組みについて大きく取り上げ、民間企業・金融の脱炭素化動向、諸外国の動向などについて解説しています。また、安定した資源確保の必要性や、気候変動への対応、激甚化する自然災害など、エネルギーセキュリティの変容についても解説し、課題や対策について紹介しています。

 

①福島復興の進捗

日本のエネルギー政策の大きな転換点ともなった2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から、2021年3月で10年目の節目を迎えました。

2020年3月には帰還困難区域以外の地域の避難指示がすべて解除されましたが、まだ解除されていない地域については、2022年~2023年春ごろの避難指示解除を目指し、特定復興再生拠点区域の整備を進め、帰還に向けた環境整備をおこなっています。また、2020年の白書でも取り上げたように、地場産業回復のための取り組みである「福島イノベーション・コースト構想」や、福島を新エネルギーのモデル拠点とする「福島新エネ社会構想」に基づいて、新たな産業の創出や集積に向けた取り組みが引き続き進められています。
福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に関する新たな動きとしては、2021年2月、使用済燃料プールからの燃料取り出しが3・4号機で完了しました。2031年内には全号機で取り出しを完了する予定です。また、原発事故により溶けて固まった燃料である「燃料デブリ」の取り出しについても、遠隔操作機器・装置などによる除染や調査を進め、2021年内に2号機で試験的取り出しに着手します。
さらに、2021年4月、ALPS処理水の処分に関する基本方針を決定し、従来から定められている規制基準を厳格に遵守することを前提に、海洋放出を選択することが示されました。
福島の復興は一歩ずつ進展していますが、いまだ多くの課題が残されています。今後も福島第一原子力発電所の廃炉と福島の復興に向けて、さまざまな取り組みをおこなっていきます。

②2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と取り組み

2020年10月、菅総理は、日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。さらに2021年4月の気候サミットでは、野心的な目標として2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すことを表明しました。

こうした背景には、世界的な脱炭素化の潮流の加速があります。環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を投資判断に組み込む「ESG投資」の増加、投資戦略の多様化といった金融の脱炭素化の進展に加え、民間事業でも脱炭素化の取り組みが増えています。2021年4月現在で、125か国と1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しました。各国とも、グリーン分野の研究開発支援や先端技術の導入支援などを積極的におこなっており、新型コロナウイルス感染拡大に伴う景気の落ち込みから回復するための一環としても、脱炭素分野へ政策的支援をしています。日本でも2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表され、電力部門では脱炭素電源(電気をつくる方法)の拡大、産業・民生・運輸(非電力)部門では、エネルギーの電化、電化しきれない熱の水素化、それでも残るCO2をメタネーション、合成燃料などの利活用や回収によって脱炭素化を進めることが必要とされています。なかでも、CO2を資源として有効活用する技術「カーボンリサイクル」は、今後、日本が世界をリードしていくことが期待されています。

③ エネルギーセキュリティの変容

日本は、一次エネルギーのおよそ9割を海外からの輸入にたよっているため、もし海外でエネルギー供給上の問題が発生すれば、資源の確保が難しくなるという脆弱性をかかえています。これまでも、中核的なエネルギー源である石油の代替を進め、リスクを分散するとともに、国産のエネルギー源を確保できるよう模索が続けられてきました。「エネルギー白書2021」では、こうしたエネルギーセキュリティの歴史を振り返るとともに、その構造変化についても述べられています。

近年では、気候変動への対応として再生可能エネルギーの拡大や、それらの大量導入に必要なサイバーセキュリティの確保など、新たな時代におけるエネルギーセキュリティ要素についても検討が深められています。また、台風や地震など、自然災害が激甚化している傾向をふまえて、災害によるダメージを最小化し、短期間で復旧・復興するための取り組みについても、世界で議論が活発化してきています。
こうした構造変化を踏まえ、エネルギーセキュリティの定量的な評価も国際機関でおこなわれています。日本でもこれまでのエネルギー白書において、定量評価に取り組んできており、今回の白書からは、一次エネルギー自給率、エネルギー輸入先の多様化など従来の7つの指標に加え、電力システムの柔軟性を図る「蓄電能力」とデジタル化の進展にともなう「電力のサイバーセキュリティ」の2つの指標を追加し、9つの指標で諸外国との比較をおこなっています。

エネルギーをめぐる日本と世界の動きがわかる

そのほか、「エネルギー白書2021」の中では、2020年度におこなわれたエネルギー需給に関する施策についてもまとめられています。

一次エネルギー供給の多くを輸入にたよる現状において、安定した資源確保のための施策や、再エネの主力電源化に向けた施策、激甚化する自然災害をも背景にした国内エネルギー供給網の強靭化など、日本のエネルギー政策の現状と目標、さらにはエネルギーをめぐる世界の動きを知ることができます。

私たちのくらしを支える身近な問題であると同時に、グローバルに影響を及ぼすエネルギー問題。「エネルギー白書2021」を読んで、改めて考えてみませんか。